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諫早湾干拓紛争に関する共同研究の成果が発表されました

 1997年,長崎県・諫早湾を有明海と遮断する潮受堤防が設置されました。ショッキングな「ギロチン」映像とともに報道されましたので,記憶にある方も多いでしょう。
 その後,堤防設置による漁業被害等を主張する有明海の漁民らは,潮受堤防排水門の開門などを求める訴えを提起しました。2010年,福岡高裁は,潮受堤防の締切りと漁業被害との間の因果関係を肯定するのが相当であるとして,「諫早湾干拓地潮受堤防の北部及び南部各排水門を開放し,以後5年間にわたって同各排水門の開放を継続せよ」との判決を出しました。    
 この判決後,すでに堤防内の干拓地に入植していた営農者や諫早市民らが「開門の差止め」を求める訴訟を提起しました。この訴訟において営農者は開門による塩害等のおそれを,市民は開門による洪水・高潮の再発のおそれを主張しました。訴訟に伴い申し立てられた開門差止仮処分は2013年に認められ,これにより,国は開門する義務と開門しない義務という矛盾する義務を司法上負うという前代未聞の事態に発展し注目を集めたのです。開門してもしなくても義務違反となるのですから,国は開門せず現状維持を貫いています。近隣住民も開門賛成派と開門反対派にわかれ,事態は膠着状態にあります。
 この諫早湾干拓紛争は,民事法学や裁判・執行制度だけでなく,大規模公共事業のあり方という政治・行政プロセス,集団および個人の意思決定の問題,そしてそこにおける自然科学的知見の扱われ方など,多様な観点から分析される必要があるでしょう。
 そこでまず法律学・政治学の観点から諫早湾干拓紛争を分析したのが,『法学セミナー』766号「特集 諫早湾干拓紛争の諸問題」(日本評論社)です。この特集は,横浜国立大学,佐賀大学,立命館大学の研究者がこれまで3年間にわたって共同研究してきた成果のひとつです(科研費15KT0043基盤研究B(紛争研究)「現代社会における紛争概念の変化と司法の新しい役割---諫早湾開門紛争を例として」(2015-2019)https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15KT0043/)。横浜国立大学からは,憲法,民法,民事訴訟法,民事執行法の各分野の教員が参加しています。
 いまだ解決の糸口が見えないこの紛争は,社会科学や自然科学が,紛争渦中の当事者たちにとって諫早の未来を照らす希望の光となりうるのかを問い質しているのではないでしょうか。



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『法学セミナー』766号新しいウィンドウが開きます

『諫干「司法と政治」の役割は 開門判決確定8年、遠い解決 打開策は…学者が提言』
 2018/12/24付 西日本新聞朝刊新しいウィンドウが開きます



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