L-Rep開講記念座談会

社会経験があるからこそ、
深く学ぶことの楽しさが分かる
リカレント教育

フルオンラインによるリカレント教育は2022年度から開講されますが、それ以前にも横浜国立大学国際社会科学府国際経済法学専攻でリカレントを受けられてきた方々がいます。科目等履修生として、あるいは、博士課程前期・博士課程後期において学ぶ三人の社会人経験者の方からお話を伺いました。

学生

金子 優子さん:科目等履修生(労働法を複数年度にわたり履修)
飯沢 恵子さん:博士課程前期学生(専門:家族法)
櫻井 幸男さん:博士課程後期学生(専門:社会保障法)

司会

大学院国際社会科学研究院 国際社会科学部門 准教授(労働法)
石﨑 由希子

最新法知識の習得、実務力の向上、新たな挑戦――
それぞれの動機で再び、大学院での学びへ

司会 最初に、これまでの職業キャリアと、改めて大学院で学ぼうと思った経緯や動機、学び続けている理由についてお聞かせいただけますか。

金子 私は現在、社会保険労務士として働いています。現在の仕事は年金が中心ですが、祖父が同じく社会保険労務士で、労働法に強かったということもあり、私も労働法のほうに舵を切っていきたいと思い、労働法の勉強を始めました。

主人の転勤で別の地方に移った際に、大学で労働法を学び始めました。せっかく学んだ知識を無駄にしてはもったいないので、横浜に戻ってきて、2018年から横浜国立大学で科目履修生として隔年で学ばせていただいています。

普段実務で年金ばかりやっていると、労働法に関して忘れてしまうということもありますし、ここ数年、法改正が非常に多くて、最新の知識に触れるためにはやはり隔年でも勉強しなければと思い、何度も履修させていただいています。

飯沢 私は20年ほど税理士として働いています。税理士資格取得までにも苦労しましたが、実務では、税法は毎年のように改正されますし、問題が与えられる試験と異なり、実務では自分で問題を見つけなければならない、という難しさがあることがよく分かりました。

10年目ぐらいになって、とうとうスランプといいますか、何をどうすればいいのか分からなくなっていたときに、横浜国立大学を卒業した先輩税理士(山田俊一先生)の勉強会や法律講座に参加するようになりました。先生は、「税理士は法律に弱い。税金は取引の最後のところで出てくるが、その前のことをもっと知らなければならない」とよく仰られており、勉強会への参加を通じて、自分の中で少し何かが繋がったような気がしました。そうしたご縁から、先生に大学院への“入院”を勧められて、正直、こんな年齢で大丈夫かなと最初は思いましたが、「ダメ元」だとある種開き直って、大学院で学ぶことを決めました。

櫻井 私は現在、博士課程に在籍しており、仕事は定年退職しています。私が大学院で学ぶ一つ契機となったのは、海外駐在の経験です。私は40年間会社勤めをしておりまして、正直、会社という組織の中でずっと生きていることが当たり前だと思っていました。そんな折、退職直前にトルコ駐在となったことをきっかけに、もっと社会に目を向けた活動をしようと思い立ちました。そこで、他大学の社会人向け修士課程で成年後見制度について学んだりしました。

一方で、高齢者の意思決定支援に関して、オーストラリアでセミナーに参加したり、ベルリンで学会に参加させていただいたりと、世界を舞台に活動を行う中で、自分の知識が非常に不足していることを痛感しました。自ら発信していくためには技量の習得がもっと必要だと思いたち、2018年に、横浜国大の博士課程で勉強することを決めました。

「バラバラだった知識が、一本の線で結ばれた」――

――「深く学ぶことの楽しさを知り、人生の大きな転換期に」

司会 実際に大学院で学んでみていかがでしたか?

飯沢 内容も深く分からずに勉強をスタートした科目もありましたが、様々な分野の勉強を始めてみると、実はどれも仕事上触れたことのある内容だったことに気づいたりして、とても面白いと思いました。バラバラだった法律の知識が、少し一本の線で結ばれた感じがして、いろんなことが結びついてとても楽しくなりました。先生方には本当に感謝しています。

金子 私もまったく同感です。一人で勉強していても何も分からない。でも、大学院で労働法を勉強し始めると、真っ暗闇の中で、先生方が遠くのほうで火を持っていてくださって、その灯った遠くの火を目指して進んでいる感じがしました。本当に勉強してよかったと思います。

櫻井 私は博士後期課程で学んでいますが、論文を執筆し、発表することで、自分の考えをまとめたり見識を深めたりすることができます。論文を書き進めるうちに、周辺領域にもどんどんと関心が広がっていき、一方で専門としての焦点を定めていく、この両方の作業をしていくのが、難しくもあり、楽しさもあります。

司会 大学院で改めて学んだことにより、自分の中での変化、あるいは仕事への影響はありましたか?

櫻井 論文を書くのは苦しい作業でもありますが、「これを乗り越えてこそ頂上にたどり着けるんだ」と考えられるようにもなり、今に至っています。論文を通して自己実現ができると感じています。

飯沢 学生時代には、勉強は少しやらされ感もあったりしましたが、社会人で勉強しようとする人は、何とか時間を割いて、それでも学ぼうという方々ですから、大学生から大学院に入る人に比べれば、向かう姿勢、学び取ろうとする中身も濃いのかなと感じます。様々なことを追求しようという姿勢で臨むことで徐々に視野も広がって、いろいろな見方ができるようになってきたような気がしています。

社会に出て実務を経験すると、ルール通りとはいかず、調整して均衡をとらないといけないような場面にあたることなどもあります。でも、それを理解したうえでもう一度法律を学ぶと、理解がまた違うのかなと思ったりします。そうした意味で、今、大学院で学んでいて本当に楽しいですね。

金子 私は、まだ学んだことをきちんと仕事に反映できていません。今はインプットの時間で、まだアウトプットの段階にはないのですが、何か一つ集中的に勉強したことは、私の人生にとってとても大きな糧になったと思います。

ぼんやりと「こうかな」と思っていたことが、大学院で学んでいく過程で、先生のひと言で見え方がまるっきり変わってしまったりすることもあって、やはり一人で勉強するよりも、先導者がいらっしゃること、そのありがたさ、楽しさを知ったことが大きかったと思います。私にとって人生の大きな転換期になったと感じています。

司会 私たちが先導者となれているかは分かりませんが、そうであれば研究者として大変嬉しいです。ただ、私たち教員も社会人学生の皆さんから学ばせていただくことは本当に多いですし、皆さんの学ぼうとする熱意に、私たちも気を引き締めて臨んでいかなくてはと改めて感じました。

同じ志、同じ視線を持った方々とともに学び合える――

――扉を開けてみて初めて見える、その先の景色

司会 今回開講したリカレント教育L-Repは、フルオンラインのコースです。皆さんも、コロナ禍ではオンラインで授業を受ける機会があったかと思いますが、社会人学生という観点から、オンライン授業に関してどのようにお感じになりますか?

金子 受講に関して、オンラインだからといって不便な部分はありませんでした。オンラインでのグループディスカッションでも皆さんと議論できて、非常に有意義な時間になりました。

オンデマンド配信の場合は、さらに自分の時間に合わせて細切れでも受講することができますし、分からないところは何度でも繰り返して勉強できますので、忙しい方にとっては大変便利ですね。

飯沢 私も、仕事をしている方にとっては、オンラインであれば通学時間のロスがないので、とてもいいと思います。

櫻井 社会人にとって何よりも難しいのは、時間をつくること。お金を出してでも時間が欲しいというのが社会人の正直なところだと思います。その意味では、オンデマンドのプログラムは大変有効です。

司会 社会人の方は、やはり時間をどのようにコーディネートしていくかが最も大事になってきますね。大学院での学びと社会人生活との両立に必要なものは何でしょうか?

飯沢 時間は自分でつくるものなので、自分の一日の時間割を立てて、メリハリを作り、緊張感を持って臨むことでしょうか。オンとオフをはっきりさせることと、義務感では続かないので、「やりたい」とか「楽しい」とか、モチベーションを高めていくことも大事ですね。

金子 モチベーションという意味では、遠隔になると、日々の生活の中でスッと流れていってしまいがちなので、自分で勉強のための習慣やリズムをしっかりつくることが大事かなと思います。

櫻井 博士後期課程の場合は、内容的に“己との戦い”の側面が強くなりますので、自分で学問を放棄してしまわないような環境を自らつくっていく。それが最も重要だと思います。

司会 最後に、リカレントに関心がある人へのメッセージがあればお願いします。

金子 普通の学部ですと、若い方の中に混じって勉強することに少し躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。でも、リカレント教育であれば周りの学生は社会人の皆さんですから、同じ志、同じ視線を持った方々とお話しできて、気持ちも上がりますし、学習意欲も高まります。そうした場所を設けていただけるのはとても幸せなことだと思いますので、ぜひチャレンジしていただければと思います。勉強するのはとても楽しいです。

飯沢 私も、学ぶって楽しいなと実感しています。案ずるより産むが易し、経験に勝るものはなし。やったことが無駄になることはないと思いますので、少しでも勉強したいという気持ちがある方は、トライしてみたらいいと思います。とりあえず扉を開けてみないと先の景色は見えませんので、「今さらこの年で本当にやっていけるかな」と思っても、とりあえず一歩進んでみてほしいと思います。

櫻井 私もまったく同感です。あえて付け加えていうなら、実用的なことを勉強されるのか、あるいは仕事といっさい関係なく新たに勉強されるのか、人によって目的も異なりますし、割ける時間やお金も違いますので、ご自身の条件に合った大学院を選ぶことも、私は重要だと思いますね。指導教授との相性もありますので、気心を許し、この方のもとで勉強したいと思える指導教官と巡り合える場所を見つけていただければ、大変有意義な場になると思います。

司会 ビジネスでも、生活でも、法律は色々なところに関わってきます。先ほど皆さんにもおっしゃっていただきましたが、点在する知識をきちんと系統立てて、一筋の道を示すこと、それが大学院の存在意義なのだろうと思います。今日、皆さんが「学ぶことは楽しい」とおっしゃっていたのが、とても印象的でした。社会人として様々な経験を積まれてきたからこそ、出てくる言葉だと思います。そうした“ワクワク”する感情に応えられるよう、私たち教職員も頑張ってまいります。本日はありがとうございました。