特別企画:学生×修了生座談会

常に現場で結果を求められるのがプロ。実践力を鍛えるための秘策とは?

川端:それでは、大学院での学習生活の中心になっているゼミに話題を移しましょう。
ゼミでは、それぞれの指導教員のもとで、2年間みっちり勉強されたと思いますが…。

上野:私は川端先生のゼミに所属していました。租税法がメインだったので、外国の文献を読む練習をひたすらしました。税理士試験の勉強では絶対に出てこない勉強です。外国の租税法の教材の翻訳をゼミ生全員で行うのです。前期課程、後期課程両方のゼミ生が集まっています。ゼミの時間が2コマ連続という長時間で、毎回7、8ページを一文ずつ読んでいきます。そして、担当はその場でじゃんけん(!)で決まります。私自身、英語にふれるのが15年ぶりぐらいで、(どうしよう!?)と不安がいっぱいで…。でも半年ぐらいで徐々にコツを掴んでいきました。

川端:補足しましょう(笑)。うちのゼミでは、訳文の発表の担当はその都度その場でじゃんけんで決める(※)。ランダムできわめて平等なルールです。あらかじめ担当を決めておくと、その部分しか予習をしてこないでしょう?でも、このルールだと自信がない学生は予習をしてこなければならない。予習をするかどうかは本人次第、授業で結果を出せればいいのです。当たったら、予習の有無とは関係なしに、発表してもらいます(笑)。
また、外国文献の輪読といっても、要旨を発表するのではなく、原文を逐一日本文に置き換えていきます。ちょうど、自分で教科書を書くような感じに。なので、外国語の文法上の構造など、一切ごまかしはききません。ごまかせば何となく読んだような気にはなれますが、正確に理解することはできないわけで。ある時期には、「川端先生の英語の授業」と呼ばれてしまったことがありますね。租税法のゼミですよ。語学力は道具、中身が大切というレベルまで引っ張りあげていかないとね。
(※じゃんけんでは時間がかかりすぎるので、現在はパーティーグッズを活用)

上野:どこまで進むかもわからないし、中身の理解のための議論に集中しすぎてあまり進まないかもしれないけれど、できる限り多めに予習をしてゼミの時間に臨む−というのが、川端ゼミなんです。

掛江:初見で成功する人なんてあまりいないですよね。

川端:まあ、そこそこできるようになりますよ。2年生の後半ぐらいになると7,8割の打率で回せるようになる人もいる。それだけ伸びてるってことです。私がなぜそんなことをしているかというと、社会に出た時、予習ができる仕事なんてないから。常にその場で勝負して、その場で答えを出さなくてはならない。予習できるぶん、学生は幸せです。
最初、できない人は予習してきて、教室で勝負する。でも予習しないと勝負できないというのは実社会では通用しないので、予習していなくてもその場で8割打てるという力をもってほしい。打率8割なんて、ゴジラよりすごいですよ。

上野:正直、鍛えられました。でもそれがあったから、修士論文で必要な外国文献も相当読み込めた。そのおかげで、なんとか修士論文も書けました。日本のことをいくら調べても誰かが何かの議論をすでにしていて、あとは賛成するか反対するかだけ。面白くないですね。それよりは、日本の誰も知らない外国の議論と日本の状況を比べてみる。そうすると、日本で普通の考え方だと思われていることがとても奇妙な考えだということがわかります。毎日、なぜ?なぜ?なぜ?の連続でした。

川端:上野さんのような税務専門職の人たちは、税務署の調査官と税理士とで事案について議論や調整をする。お互い相手がどんな主張をするかはわからない。それに対してどう答えるかなんて予習はできないのです。どんなボールが飛んできても、そこそこ打てる、うまくいけばホームランを打ってギャフンと言わせられる−それぐらいの能力を、課税側に立つ人も、納税者側に立つ人たちも現場では使わなくてはならない。だから、教室でもだんだんとそういった能力を養っていきましょう…と。半年したら、予習しなくても空でいえるようになりますよ。それが進歩というものです。
もちろん、そのためには、せめて半年は砂を噛む思いで予習をしないと、普通の学生諸氏では外国資料の内容が理解できない。なので、みんな大変な思いで予習していることはよくわかっています。私も学生時代はそうでしたから(苦笑)。教師も学生も同じなのですよ。ゼミだけでなく、大学院の学習は、単に知らない知識を知ればよいだけではなく、その知識の向こうにある社会の現実や思想にまで視野が届く必要があります。学部よりもより深くより高度に社会を見つめるわけですから。

上野:ゼミでは、日本語和訳を全部打ち込んで持っていって、他のゼミ生の発表を聞きながら、自分で赤鉛筆片手にチェックをしていました。最初は、朱を入れた紙がたまっていくわけですが、やっていくうちに、たしかに租税法独特の単語の言い回しや意味が身についているのが実感できました。で、だんだん朱を入れる部分が減ってくる!なるほど、と。外国の租税法の教材でも、日本と同じ説明をしていたり、まったく違った説明が普通にころがっていたり。眼から鱗ですね。

掛江:私たちも英語の文献を読みましたが、やっぱり予習は大変でしたね。まず、ちゃんとしたレジュメが作れるようになるまで、けっこう時間がかかりました。私たちのゼミには留学生がいっぱいいて、いろんな意見を話しあうことができました。

高度専門実務家や社会人も学ぶ国際色豊かな研究室

川端:留学生がたくさんいるというのは、具体的にはどういう感じなの? 日本人とはまったくちがう意見が出てくるとか、論文の評価が国によって微妙に異なるとか、そういう話を聞くこともできるのですか?日本人学生は彼らからどんなことを学んでいるのでしょうか。

掛江:そういうこともあります。たとえば、バングラディッシュからの留学生は、途上国としてのアイデンテティを強くもっているので、既存のシステムに対してすごく批判的な意見を述べたり…。そういう部分もすごく興味深かったです。

川端:日本の、先進国側の目線ではない視点で、途上国問題を議論できるということ?実際にそういう興味深い議論をする人が教室の中にいるわけですか?

掛江:そうです。また、本国では外交官や弁護士をしている政府派遣生も多くおり、プロフェッショナルの視点からの発言という点でも勉強になりました。私は安全保障や紛争についての研究をしているので、ポルポト政権時のカンボジアの状況や、バングラディッシュでどういう少数民族問題があるかとか、その国から来た人から聞くと現実味があり、本で読むのとはまた違う感じがしました。彼らの生の声を聞くことによって、社会問題がより自分と近く感じられ、現実感があります。

川端:なるほど。論文や報道で伝えられるものと、実際にその国で経験してきた留学生から意見を聞くことと、立体的にできごとを把握しているわけですね。これはその国の人でないと話せない。留学生は日本人学生にとって、教師としての役割も担っているわけですね。
それでは次に、現役生として、ゼミの内容などについてお話ください。

阿部:現在、小池先生のゼミでは研究の基本的な概念についてレジュメを作って報告しています。後期課程のゼミにも参加しているのですが、非常に国際色が豊かです。毎回色々な国の制度を知ることができるので、そういった意味で大変刺激になっています。

川端:どんな国の留学生がいるのですか?

阿部:マダガスカル、ネパール、メキシコ、タジキスタン…などのご出身の方々がいらっしゃるのですが、皆さん社会経験も積まれており、これから書く論文や、自分自身のキャリアについても考えるきっかけになっています。また、今日本がおかれている状況、他の国からどう思われているかということを、日常の中で知ることができます。そういった機会は他の場ではなかなかないと思います。私は「比較公共政策」の観点から研究を行っているので、外国人の意見や視点を日常の中で知ることができるのはとても有意義だと思います。

掛江:国際性豊かというだけじゃなく、社会人が多くいらっしゃるというのがいいですね。自衛隊や官公庁など、研究分野と隣接したところで仕事をされている人たちの実務的な意見を聞くことができるのは、とても恵まれていると思います。

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Photo : 学内風景

Photo : 法学資料室(→リンク

Photo : キャンパスから横浜市内を望む

Photo :法学研究棟